イノベーションの種を活かす組織と腐らせる組織の決定的な違い。

イノベーションがうまくいく組織とそうでない組織の決定的な違い。

昨今、シェアリングエコノミーという概念のもと、休眠不動産をシェアするというビジネスモデルで、いわゆる「民泊」が不動産業やホテル業の領域に進出してきたり、人の空いている時間を活用して飲食店の宅配をするUberEatなどのサービスが出てきたり、休眠資産と利用者をマッチングさせることで、価値を創造しているビジネスが増えてきている。

今でこそ「民泊」は誰もが知るサービスだが、民泊サイト最大手のAirbnbが本格的に日本に上陸したあたりから、話題になり始め、2016年にはAirbnbを利用して370万人以上の旅行者が海外から日本を訪れたたと言われている。休眠資産を所有し、活用したい家主とそれを短期利用したいユーザーが結び合わさることで、それぞれの価値を創造している。しかし、シェアリングエコノミーだけでなく、新しいビジネスモデルは、元々それらの商材を扱っている業界から生まれたサービスではないことが多い。

また、異業種間のコラボももはや当たり前になってきている。2018年には、トヨタ自動車とソフトバンクが提携し、ライドシェア事業に乗り出したり、今までパートナーになり得なかった業界の会社が手を組んだりすることも珍しくなくなってきている。同時に、今までコンペティターとなり得なかった業界が競合となり、市場の中に新たな市場をつくり一気に覇権を奪われるなんてこともある。

成熟した日本経済の中では、飽和状態になった市場の中で事業成長の伸びが鈍化し、新たな事業立ち上げや、イノベーションを推進している企業も多いはずだ、しかし、なかなかブレイクスルーしていかないという悩みを持つ組織も少なくないだろう。そういった傾向が強いのは特に一つの領域で長く商売をしてきた古き良き日本企業に多い気がする。

イノベーションに必要な創造的破壊からの市場創造。

イノベーションの定義は様々あるが、ひとつの要素として「創造的破壊」がある。例えば、イノベーティブな製品の代表といえば、Apple社のiphoneがある。それまでスマートフォンといえば、キーボードが内蔵されているボタンだらけの携帯のことだったが、「そんなの全然スマートじゃない」とスティーブジョブズはiphoneのプレス発表の時に言い放った「私達のスマートフォンはボタンは一つしかない」と、彼のプレゼンテーションを見たことがない方は→のリンクから一度ご覧になってください。(i-phoneのプレゼンテーション:youtube

そして瞬く間に、過去の携帯電話は一気に過去のものとなり、野暮ったくなった。今までの主流だった型は「ガラケー、ガラバゴス携帯」と呼ばれるまでになる。これが当時の携帯電話市場に起こった創造的破壊だ。イノベーションに欠かせない要素として、既存市場に新しい市場が生まれるということだ。携帯市場という大きな市場の中に「iphone市場」が生まれた。このように飽和している既存の市場の中に新しい市場が生まれると、飽和市場内にも関わらずいきなりブルーオーシャンが生まれる。全面タッチパネルのいわゆるスマホを欲しい人は他の携帯など見向きもしない、iphone一択になる。その後、各社一斉に追随するが、どうしても二番煎じ感があり、しばらくは一強時代が続くことになる。

もう一つわかりやすい例を挙げるとすれば、Dysonの扇風機がある。これは「扇風機は羽があるものだ」という常識を一気に覆した。飽和している家電市場の中で、扇風機を出しているメーカーは顧客アンケートや市場調査を元に様々な「機能追加」を行い差別化を図ってきた。扇風機に限らず様々な家電に、あれやこれやと機能が付いているのはそういう背景にある。

しかし、大前提として「扇風機には羽がある」という土台の元に開発されており、「扇風機ってなんか形がダサいよね」とは中々ならない、羽があるものだし、こういう形が扇風機であるという大前提があるから、市場調査ではそこは中々出てこない。そこに対して「羽のある扇風機ってなんかインテリアを台無しにするよね」という切り口、これこそが破壊のポイントになった。

新市場と言う意味では扇風機市場の中に「羽根のない扇風機市場」が生まれたということになる。市場というのは、”欲しがる人がいる”ことだ。扇風機が欲しい人の中で「羽根のない扇風機」を欲しがる人がが生まれた。羽根無しという新たな価値観を提案することによって、扇風機市場の一部をまるごと「羽根無し扇風機市場」が食ったことになる。羽根無し扇風機を欲しがる人は必然的にその提案者であるDysonの扇風機を選ぶ。一般的な扇風機に比べかなりの高価格だが、既に他の扇風機と同じ土俵で競争していないので、売れてしまう。

先行者利益が得られる期間は短くなってはいると言われるが、最初に市場を生み出したブランドの力は大きい。「お掃除ロボット」と聞かれて思い出すのはなんだろうか?「ルンバ」と答える人が多いはずだ。家電売り場に行けばルンバ以外のお掃除ロボットはたくさんある、しかし、パッと思い出すのは「ルンバ」という市場の先駆者であるルンバというブランド名だ。

イノベーションのキモとも言える創造的破壊のポイントを探る際に必要なのは。

イノベーションにはいくつかある、全く新しい素材や技術開発などの”発明的なもの”によって既存市場に創造的破壊を起こすものもあれば、前述したように、市場の盲点を付いたイノベーションもある。Dysonは扇風機には羽があるものという常識を破壊した。Appleは携帯電話市場でスマートフォンの常識を破壊した。日本の例で言えば、ZOZOTOWNがある、試着が必要なアパレルはインターネットでは売れないという常識をぶち壊した。

このように今までの常識を一気に過去のものにする新しい常識があるというのが特徴だ。

顧客アンケートや市場調査ではイノベーションの種は見えてこない。

家電やスマホ登場前の携帯電話などを見ていても、ほとんど使うことのない機能がたくさん付いているものが多い。これは顧客の声を聞き、その中である程度母数のあるニーズを拾って実装しているからに過ぎない。企業内で企画プレゼンする際にある程度「売れる見込み」を作らなければいけないから仕方がないこととも言える。根拠のないものに投資するリスクを取れないのだ。

だが、そういったアンケート調査からは「扇風機の羽を無くして欲しい」なんていうことは出てこない。出たとしても「もう少しインテリアとしてもお洒落なデザインがいい」などはあるかもしれないが、そもそも消費者自身が前提として羽がついているという枠組みの中で考えての答えでしかない。不満として顕在化していない、消費者自身も気が付いていない潜在的不満はアンケートではあぶりだせないのだ。

潜在的不安を顕在化させるには、「常識にとらわれない」ことが必要だ。長く同じ事業を展開し、堅実に成長してきた企業ほど、こういうことが苦手なことが多い。

イノベーションがうまくいく企業の人材活用術

安定成長を続けてきた企業も、成熟した経済の中で、事業の変革が急務であり社内では「イノベーション」が合言葉になっている企業も少なくない。しかし思うように進まないのは、人の活用にある。1つの事業を堅実にやってきた企業は離職率が低く、年功序列であったりする。こういったところでは、過去の成功事例や成功パターンを正義とし、それに当てはまらないものは除外し、新しい取り組みや考え方を受け入れにくい仕組みが出来上がっている。

前述したように、イノベーションには「今までの常識」を一気に過去のものにする。常識の範疇で考えているうちはイノベーションは到底生まれない。

では、うまくいっている企業は何を大事にしているのだろうか。

それは”若者””ばか者””よそ者”だ。

「若者、ばか者、よそ者」というのは昔から言われることだが、イノベーションがうまくいっている企業は、業界の慣習や常識の枠組みに染まっていない若者の斬新な意見や、一見馬鹿じゃないかと思えるような発想をしたり行動をする者、そして、よそ者は全く違う業界や会社から来た人の視点や見解などを排他せずに上手に活用しているのだ。活用しているというよりも、そういう人の意見を柔軟に取り入れ実行してみることが当たり前になっていると言った方がいいかもしれない。そこにこそイノベーションの種があるということをよくわかっているのだ。

イノベーションがうまくいかない企業は、いまだに年功序列があり、過去のパターンを捨てきれない人たちが、若者の意見を軽視し、異端なアイデアはリスクとして切り捨て、外から来た人には「業界のことがわかってない」と切り捨てる。事業は頭打ちになるものの、それなりに既得権益で事業自体は安定している、そんな企業に多い気がする。

今時そんな企業があるのかと思うかもしれないが、これが山のようにあるのが実態だ。イノベーションは単なるスローガン化し、意見を言っても報われない若者は意見を言わなくなり、上の顔色ばかりをみて仕事をするようになる。異端児は見切りをつけて転職し、よそ者もまた転職していく。

過去の延長線上にイノベーションは生まれない。

今後さらに市場変動は激しくなり競争も激化してくる中で、イノベーションの種を腐らせてしまう企業に未来はない。そして過去の延長線上にイノベーションは生まれない、だからこそ業界の常識、会社の慣習みたいなものを破壊してくれる「若者、ばか者、よそ者」の意見を真摯に受け止め、全く違う角度から事業を見直し、業界を見直し、市場を見直した時に、新たな突破口が見いだせるのかもしれない。

古き良き企業はそれはそれで素晴らしい価値を持っている、新しいものと融合し、さらなる飛躍をするためにも、今一度、社風を見直すべき時が来ているのではないだろうか。それが今できないのであれば、近い将来、飽和市場の中で埋もれてしまい、イノベーティブな黒船企業の襲来を指をくわえて見ているだけになるかもしれない。

古澤慎之介
古澤慎之介プロデューサー・編集長

ULL編集長、マーケティングのノウハウと、エネルギーマネジメントを武器に、組織課題の発見と解決プランの策定、さらには実行する際のチームビルドと人材育成までを支援。
“日本にもっと「イイ顔」している人を増やしたい“という想いのもと、広告会社、エンタテインメント会社での経験を経てマーケティングディレクターとして独立。マーケティング課題の発見と、ソリューションの提案だけでなく、実行できるようメンバーの育成、チームビルディングまで行う。自身の実践的な体験からエネルギーマネジメントという独自の人材育成の理論とコーチングの手法で、人のポテンシャルを最大化し組織の本当の力を引き出す。

一般社団法人グローバルリーダーシップコーチング協会(GLC)の立ち上げで出会った藤井義彦氏と世界で活躍する講演家のジムバグノーラ博士をメンターとして師事、2018年、ジムバグノーラ博士より「PhB・マスター・プラクティショナー」として認定される。


【活動領域】
●マーケティング戦略 ●組織変革・チームビルディング ●パーソナルブランディング ●コーチング ●PhBマスタープラクティショナー ●クレイセラピー(国際クレイセラピー協会認定クレイセラピスト) ●エネルギーマネジメント